属州にある我が家は、決して裕福ではなかった
ただ食うには困らず、両親がほどほどに真面目だったためそこまで悲惨な生活を送っているというわけでもなかった
ガレマールの属州の小さな町に生まれたからか、貧富の差というものを幼少の頃より無意識に感じていた
なぜ隣に住むあの子は、毎日ゴミを漁るのか
なぜ一緒に遊んでいたあの子が、次の日から姿が見えなくなるのか
腹を空かせて残飯にまみれたまま死んでいるあの子は、何をみていたのか
当事者にならないからこそ、「人は平等ではない」と無意識に感じていたのかもしれない
母は小さな町の出来事の数々を指して、口癖のようにこう言っていた
「あそこの家族は運がなかったんだねぇ」
「おまえはきっといい運がついて回るよ、だってこんなにも元気でかわいいのだから」
その言葉を聞くたびに『運』という存在を意識し、自分の中で答えづけた
『幸せな人生を送るには運が必要で、運の向きが悪い奴はひどい目に遭うのだ』と
母の言葉から運という存在が自分の味方であると信じた
ゴミを拾うあの子や、毎日親に殴られるあの子は運を味方にしていないのだと信じた
そんなある日、父が仕事で遠出することになった
行先はシタデル・ボズヤ、父が昔生活していた土地だという
「元々は別の奴が行く予定だったが、土地勘がある方がすぐ仕事に集中できるということで私が急きょ呼ばれたよ」
と上機嫌に笑う父
「この仕事の大元は帝国のお偉いさんだそうだ、成果を残せたら市民権をもらえるかもしれない。 ウチも運が向いてきたかもしれないな」
そんな風に笑う父を見て、つられて幸せな気分になっていくことに気づいた
運は自分の味方だ、運は自分と家族を愛してくれてる
そう強く思えた
行くはずだった人の家族は暗い顔をしていた
本来手にできたはずの仕事を、輝かしい未来を手にいれられなかった
敵意にも似た視線を見ないフリするだけで精一杯で
その家のあの子は、ほっぺたが腫れていた、気づかないふりをするのに必死だった
父が意気揚々とでかけて数日後
光
天を貫いているのか地を燃やしているのかもわからないような巨大な光が現れた
何がどうなっているかわからず、頭を伏せる
光と音と風に包まれる中、母が視線を向けながら呟いた言葉だけが耳に残った
「お父さん・・・?」
光の奔流、その方角にあるものはシタデル・ボズヤ
その日、父は存在を消した
仕事と都市と、輝かしいはずだった未来と共に消え去った
小さな町でもちきりになる情報
錯綜する噂話
生きている、死んでいる、成功だ、失敗だ
戦争だ、新兵器だ、攻撃だ、反撃だ
どんな噂が立ったところで父は帰ってこない
けれどその噂を聞いているとき、あの子は笑っていた
隠れて、ひっそりと
その薄暗い笑顔が脳裏に焼き付いた
運ってなんだ
運ってなんだよ―――
※このお話はFF14の二次創作です、公式設定とは関係ありませんのでご了承ください