とあるありふれた帝国兵の話

とあるありふれた帝国兵のお話 第11話 【そんな目で見るな】

ここドマは、故郷の匂いがする

あそこと同じ、負け犬の匂いだ

 

 

全滅憂き目から数日して、改めて異動の命令が出た

一切隠す気すらない左遷だ

周囲から小馬鹿にした薄笑いが聞こえてくるが、そんなものはどうでもいい

 

 

任地はここから遠く離れた属州ドマ

配属は代理総督直下部隊

直下部隊と言えば聞こえはいいが、ここドマは属州出身者が代理総督として治めているという非常に珍しい人選になっている

その代理総督は、見ている限りこの国をまともに治める気などない

やることと言えば気まぐれに統治下のどこかに赴いては圧政、弾圧をしかけ民衆を苦しめることのみ

ドマを統治し利用する気などさらさらない、ただいたぶる事にだけご執心だ

そんな人間の直下についているのだからたまらない

 

 

属州出身でかつそのような人材を登用しているということは、その人物がよほどの能力と才覚の持ち主か、それとも上層部がドマの統治と繁栄に一切興味がないか……

 

ドマを人間を痛めつけるくらいしか興味を持てない上層部と、ドマをいたぶることだけが生きがいの人物が揃ってしまった……つまりここは、帝国軍の中でも掃きだめだ

直下部隊と言っても人員は少なく、やることと言えば代理総督について回り属州民を一緒に痛めつけるか若しくはボディーガードか

 

代理総督の気分で1日の仕事も変わり、気分で罵られ、殴られ、蹴られる

怪我を負うほどの殴打はされないけれど、結局のところはご機嫌取りのサンドバックだ

 

 

赴任してから数週間そんな日々を過ごしていたところ、ある小さな漁村で事件が起きる

いつもの様に気まぐれに属州民をいたぶる代理総督の前に、とある男が立ちはだかった

 

その男には見覚えがあった……かつてカルテノーでの戦闘で「卑劣漢」とののしってきた奴だ

 

代理総督との会話を聞くに、ここドマの重要人物……それもかなりの手練れ

1000人斬りなど物騒な言葉が飛び出し、あの時よく無事だったものだと我が身を安堵する

 

 

属州民の身代わりになり人質になったその男は、代理総督とまるで心の急所を殴りあうような言葉をひるむことなくやりあっていた

その前に散々殴りつけたにも関わらず、だ

 

何をされようと、何を言われようと心根は曲げず、刺し殺してくるようなするどい眼光をするその男

 

代理総督は興味を失ったかのように引き続き痛めつけるように命令し、その場を去って行く

痛めつけろと言われても、どこをどう殴っていいのかわからない

 

 

男は何も言わず、一瞥をくれたあとただ静かに殴られ続けた

これまで何度もいろんな人間を殴ってきた、痛そうにする奴、哀願する奴、恨み言を言う奴、嗚咽を漏らす奴、恐怖に震える奴……みんな我が身しか案じてない負け犬の目をしていた

 

目の前のこいつは、こちらの暴力なんて気にもしない

どこかわからない遠くを見据えて、うめき声一つ上げずそびえる

殴る手も疲れ果て手を止めれば、半目でこちらを睨みつける

『その程度か』と言わんばかりに

 

そんな目をするな

そんな目で見るな

 

殴る手に精一杯力を込めるけれど、大木を殴りつけるような衝撃が返ってくる

こちらの手が震えてくる、効いていないのはわかるけれど、それでも殴らざるを得ない

 

そんな目でこっちを見るなよ

そんなに……そんなに多くのものを持っていないし、望んでいないんだ

今はアイツに一矢報いたいだけなんだ、それだけなんだ

 

 

だから、頼むから、そんな目でこっちを見るなよ!

 

 

それから数日の後、奮起した海賊たちに反撃に遭い退却せざるを得なくなった

人質にはあっさり逃げられ、護衛兵など名ばかりで敗走している連中ばかり

なんとか代理総督の身の安全だけは守り切ったが、随伴の兵士はあまりに脆かった

退却の最中、代理総督は煙草を吹かしながらどこ吹く風

生き残った兵たちも覇気はない

 

あぁ、ここは掃きだめだ

何も手に入れる気もない、創る気もない

この国も、自分自身も壊れてしまえと言わんばかり

 

底なしの泥濘の中で、あがく気力も失ってしまいそうだ

ただ思うは、あいつへの仕返しだけ

それすらも、淡い夢のような気がするけれど

 

そんな目でこっちを見るな、見ないでくれ―――

 

 

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