とあるありふれた帝国兵の話

とあるありふれた帝国兵のお話 最終話 

例え劣悪な日々だったとしても、それが失われれば日常の破壊だ

逃げ帰ったその日、代理総督はなじることも殴ることもしなかった

ただ驚きも焦燥もなく、冷たい目でただ見つめてくる

そしてそれが何を意味するかくらいは理解している

 

処刑か、特攻か、捨て身の盾か

もう生き残る目はここにはない

 

数分の沈黙の後、代理総督の言葉を遮って口火を切った

少しだけ驚いた表情をした後、代理総督は席を立った

しばらくして代理総督が戻ると同じ頃に迎えが来て、部屋を去る

部屋を出るとき、代理総督がどんな表情をしてたはわからなかったし、興味もない

ただ鼻から抜けるような、力ない溜息が聞こえた

 

 

呼ばれた行ったその部屋は、いけ好かない匂いをさせていた

消毒と薬剤にどっぷりつかったような、鼻につく香り

 

そいつらはこちらを人間としてみていない下卑た笑顔で、頭からつま先までねっとりと視線を送ってくる

きっと言葉通り、こちらを人間ではなく実験動物としてみている

まるでおもちゃを与えられた子供のようにキラキラとはしゃぐ白衣の連中

 

いわれるがまま、手術台の上に横たわる

横たわる台の横に、今から戦争で行いかねないほど膨大な器具が並べられる

少しだけ腹からこぼれた恐怖心を必死に飲み込み、こぼれないように目を閉じる

これから始まるのは人間をやめる為の改造

 

 

いいんだ、もういい

運がいいとか悪いとか、どうでもいい

人である限り、きっと奴には勝てない

つまり、人である以上幸せな生活などできない

 

 

 

なにが悪カったんだ?

属州ニ生まれタことガそんなにモ罪なのカ

それはつまリ、生まれタこトが罪だったノか

 

母モ父も必死に生きテただけじゃなイか

路地裏で残飯ノ中デ死んでいた友達ガ、一体何をしたンだ

 

誰ヲ恨んでモ仕方ガナイと、幸セな人生ヲ手に入れるにハどうシたらいいカ

自分ナリに考えテ選ンで決めテ、進んデ生きテ来たンダ

そレガ間違ってイタと言うナラ、どうして教えてくれなカッタんだ

 

お前ラハ無責任ダ

生まレル家モ場所モ選ベズどこに行けばイイノか示しモセズ、タダ間違っテイルト唾ヲ吐ク

泣きナガラ選ンダ僅かナ可能性ヲ、ヘラヘラト笑いナガラ何度モ踏みニジル

オ前ラガ涼シイ顔デ殺シたのハ、昨日マデ一緒ニ飯を食っテた仲間ナンダ

イイ奴ラダッタんダ、幸セになる為ニ必死ニ生きてキタダケの奴ラダッタンダ

 

 

 

返セヨ、母ヲ

返セヨ、父ヲ

返セヨ、手ニ入ルハズダッタ人生ヲ

返セヨ、返シテクダサイ

オラハ、オマエラノ添エ物ジャナインダ

オマエラノ物語ノ一部ジャナインダ

 

憎イゾ、英雄

憎イゾ、天敵

 

オラハ人間ヲヤメテ強クナッタゾ

人間ジャナイオ前ヲ、テンテキヲコロスタメニ

 

 

アノヒノギラバニアノ仲間ノヨウニ

木ッ端微塵ニシテヤル

 

人間ヲヤメタカラ、人間デナイオ前ト対等ニナレタ

オ前ト同ジダ、見ロ

コイツデ一発ダ

死ネ、憎イゾ

 

 

アイツラヲ殺シタ感触ヲオシエロヨ

覚エテイナイトハ言ワナイデクレヨ

 

斬リ刻メ、天敵ノ首モ、生キテキタ証モ

ミンナミンナミンナミンナ

 

 

生マレモ

帝国モ

青イ空モ

運モ 出世モ 未来モ

 

ソシテナニヨリ

ニクイゾ

英雄 テンテキ

オマエガ ニクイ

 

殺ス

 

ココマデデ終ワル

エ?

 

何ガ?

本当ニ?

 

ッ――

 

瞬間、全身に衝撃が走る

ついさっきまで背中に感じていた感覚が、顔に、腹に、膝に感じる

 

ついさっきまで手術台の上に寝ていたはずなのに

気づけば赤い床に伏している

 

あちこちから轟音と、これは……水の音……?

わからないまま、思考は千々に千切れ、視界は暗くなっていく

耳につく音が、まるで箱に収められるように遠くなっていく

 

赤い床は、自らの赤い血と混ざり広がっていく

溺れるように沈むけど、吐く息ももうない

 

何が起きた……?

何をしていた……?

嫌だ……オラは……まだ………

 

沈む体を支えることもできず、眼球だけ空に向ける

 

あぁ、わかった、そういうことだったんだな

 

 

 

 

 

こっちを見てくれたな

お前はそんな顔をしていたんだな

 

 

天敵

 

 

………ッ

………………ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……数刻の後、ガレマール帝国にドマ陥落の一報が入り、ドマ城防衛戦にて戦死した者の名前が読み上げられる

 

 

だが誰も、その名前に気に留める者はいない

その名前を記憶に留めた者はいない

 

ドマ陥落の報が混乱と急務を呼ぶ

死者を悼む余裕など、誰の心にもない

 

努めて平坦な読み上げの声と、喧騒に包まれる兵士

その読み上げが終わった、もうそれすらも誰も気づいていない

 

とあるありふれた帝国兵の戦いは、わずか4分40秒の報告で語られ、忘れ去られた――――

 

 

 

※このお話はFF14の二次創作です、公式設定とは関係ありませんのでご了承ください

こちらの記事もおススメです!