とあるありふれた帝国兵の話

とあるありふれた帝国兵のお話 第13話 【人として、人の意地を】

代理総督が渡してくれた部隊権限は選抜兵がおおよそ受け取れないほどの権限だった

 

本来であれば百人隊長が率いるべき人数の小隊を、本来は百人隊長の補佐役である選別兵に一任したのだ

それだけではなく、バエサルの長城にて建造された魔導兵器アームドウェポンも1機随伴させてくれることとなった

 

100人に近い兵と魔導兵器、これまでの作戦から考えれば信じられないほどの厚遇ぶりだ

先日の一件がよほど神経に来たのか、代理総督自身も英雄殺しの為に本腰を入れたというところか

 

だが、ただ数で押しても勝てない相手だというのは2度の戦闘で十分に思い知らされた

今までのような漫然とした遭遇戦や作戦疎通が不十分な状況で立ち向かえば、数の有利などあっという間に押し切られてしまう

 

今度こそ絶対に勝つ、殺す

 

 

その為に自分だけではいけないのだ、全員の意思共有が絶対に必要になってくる

まずは士気を高めるためにこの戦いの敗北が何を意味し、勝利が何を約束するのかを明確にした

帝国という組織に与していると言っても、ほとんどのものがガレマール人でも、まして帝国の市民権を持っているわけがない

様々な属州から集められ、故郷から遠く離れた場所へ配属され家族の安否を半ば人質に取られた形で明日の命をも知れぬ生活をしているような者がほとんどだ

 

この戦いの敗北はドマへの反乱の足掛かりになるばかりか、属州ドマの根幹を揺るがしかねないのは明らか、それはつまりここに配属されている人間がどのような扱いになるかということだ

 

 

 

今回の作戦に参加する者たちを集め、言葉をかける

 

敗北すればここにもちろん帰ることはできないし、もちろん故郷へ帰ることなど絶望的となる

それどころか属州の奪還という実例を一度でも許せば同じく属州となっている故郷がどうなるか、残された家族がどうなることか

 

この作戦には逃亡も敗北も許されない、勝つか死ぬかしかないのだ

 

 

 

だが、その分勝利したときには大きな褒美が期待できる

この戦いに勝利し、大きな戦果を残せたものには代理総督へ故郷の部隊への配属転換、若しくは市民権獲得を責任もって進言することを約束した

それはすなわち明日の見えない彼らに、ほんの少しだけ未来への希望の明かりが灯るということだ

それを証拠に、その言葉を聞いて歓声が上がる

 

 

 

負ければ死、勝てば少しだけ明るい未来

大きな絶望という焦燥感と、少しの希望という期待感

残酷ではあるが、兵たちは湧きたった

進むしか道はないとわかっていても、少しだけ進む道があったことを喜びながら

人を追い詰めるには絶望的状況と、ほんの少しの希望だ

お互いきっとわかっている、負けた場合の『もしも』は絶対で、勝った場合の『もしも』は不確実ということを

進言したところでそんなもの約束されるはずがないのは、これまでも扱いで十分にわかっている

それでも信じずにはいられない、信じるしか道はない

それをわかっていて口に出したのだ、言われた通りの卑劣漢だなと自嘲する

 

作戦としてはこうだ

数の暴力で一気呵成に襲い掛かったところで押し返されるのは以前に学習した

数の有利は生かすとして、それ以外でも有利な状況を作り出す必要がある

またこちらは『英雄』というターゲットのみを殺害すれば勝利といえる

 

ならば歩兵などは極力英雄の周りにいる連中を抑え、英雄をできるだけ孤立させることに集中させる

あとは兵の中で比較的単騎能力の高いものとアームドウェポンを援護につけて自分がガンハンマーとガンシールドの破壊力で押し切る

威力はあるが攻撃範囲が広いこの装備、前回のように味方を巻き込みかねない攻撃を重視するのであれば兵たちは英雄を殺す為に使うのではなく、英雄を孤立させることのみに注力させたほうが都合がいいだろう

 

兵たちは一気に押し寄せるのではなく、敵の数に対して常に2もしくは3対1の状況を作るように意識、その際は相手殺すのではなく足止めを意識し少しでも長く相手と戦い消耗させることを目的とする

兵たちに作戦の概要を伝え、その上無駄死にはするな!と檄を飛ばす

 

 

数が大幅に勝っているのであれば本来は力押しの蹂躙で勝負はつく

けれどやつらにはそれは絶対に通用しない、奴らの戦い方は対人のそれではないのだ

もっと大きなものを想定した戦い方……だから徒党を組んだ人間程度など一山いくらで蹴散らされる

 

真っ向切って戦うのではなく、逃げながらでも相手の足を引っ張り削り続けていく

例え異常な力を持つ人間でも、迷いもすれば疲弊もする

その隙を狙えるまで戦い続ける

 

また大事なのは攻撃を仕掛けるタイミングだ

今回はこれまでとは違う、こちらが万全の準備をした上で襲撃をかけられる

奴らにとって最悪なタイミングでなければ意味がない

 

奴らは今、アジムステップで民族同士の紛争に関係しているという情報は得ている

であれば戦闘後の疲弊したタイミングを狙えば有利に戦闘を始められるかもしれない

些細なことかもしれないが、勝利を拾うためなら少しの可能性にもかけていく

 

 

英雄に人の意地を見せてやる

必ず殺してやる

獲物が必ずしもおとなしく食いちぎられるわけではない事を、思い知らせてやる

 

待っていろ、天敵―――

 

 

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