飛散する殺意としか形容の仕様がない、それが第XII軍団長を初めて目にした感想だった
殺意がこちらに向いているわけではないけれど、何かのきっかけで首をはねられてしまいそうな恐怖が常にまとわりついてくる
そのきっかけは、例えば羽音が耳についただけで殺される羽虫のような、その程度の些細なもの
それくらいの無感情な殺意を感じずにはいられない
そんな化け物に髪を粗雑に掴まれ釣りあげられている代理総督が目の前にいる
任地についてからこっち、気分で殴られ罵られてきた相手とは言え、見知った人間がそんな目に遭わされていれば心配くらいする
挙句に代理総督に向けられた言葉が『遂げられなければドマごと散れ』だ
無茶苦茶にも程がある
言うべきではなかったのかも知れないが、思わず代理総督に声をかけてしまった
どれほどの恐怖だっただか……心配せずにはいられなかったのだ
少しの間が空いた後、平手打ちで吹き飛ばされた
ちょっとだけ覚悟はしていたけれど、実にいいタイミングだったので思わず吹き飛ばされてしまう
心配するんじゃなかったという気持ちと、これだけ威勢が出せるなら大丈夫だろうという気持ちが半々で混ざって微妙な表情になってしまった
属州を見せしめの為に痛ぶれと命じる帝国、戦い以外に興味を持たない皇太子、個人の恨みに権力を持ちいる代理総督
あぁ、分かっていたけれど
ここにいる人間はどこか狂っている
自分以外は……なんていうつもりはない
自分もまたおかしいことには薄々気づいていたよ
ついさっきまで倒れ伏した人のことを心配していたはずなのに
「英雄をひねりつぶす為の作戦を一任する」
その命令だけで、もうあいつを殺すことしか考えていないのだから
仕方ないさ
もうあいつを憎む以外に何も心が湧きたたないのだから
狂気でも怒りでも欲望でもなんでもいい
アイツを殺さないと、幸せにはきっとなれない
さぁ、殺しに行こう―――