とあるありふれた帝国兵の話

とあるありふれた帝国兵のお話 第6話 【絶望の希望】

「それは我々に死ねということですか?」

アラミゴ駐留隊の指揮官が半ば叫ぶように聞き返す

それを告げた連絡官は、薄笑いを浮かべながら言葉を返さない

 

 

魔導城プラエトリウム陥落

ガイウス軍団長戦死

侵攻部隊の残余はほぼ籠城状態

 

第XIV軍団の要が全て打ち壊された今、残されたものの運命は悲惨だ

 

さらに後任として派遣された部隊はかの悪名高い第XII軍団……あのヴァリス帝の息子、ゼノス・イェー・ガルヴァスが率いる軍団

ゼノス皇太子の行くところには血の雨が降る、兵士たちの間ではもっぱらそう噂されていた

 

第XIV軍団は先の戦いで事実上の壊滅となった今、属州のお守り部隊など第XII軍団にとっては体のいい鉄砲玉、下手をすればただの邪魔物の粗大ゴミ程度しかないのだろう

 

それを裏付けるように発せられた指令、それはカルテノー平原にある古代遺跡の調査だった

敵国の、しかも駐留部隊のバックアップなど望めそうもない状況

もちろん第XII軍団からの援護もない

 

要は何か成果を持ち帰れば僥倖、その程度の人員整理を兼ねた完全な捨て駒だ

 

アラミゴ駐留部隊の指揮官がなおも指令の撤回を求め叫ぶ

それを皆で不安そうに見つめる

刹那、膝を落とし崩れ落ちる指揮官と感情もなく返り血を払う連絡官

 

「ゼノス様から逆らうなら処分せよと仰せつかっている」

指揮官の亡骸から流れる血の海に鬱陶しそうに砂をかけ、言った

 

「死ぬか行くか、選べ」

 

 

蜘蛛の子を散らすように、その場を去るアラミゴ駐留部隊

号令も編成指示も激励もない、およそ軍隊の作戦行動とは思えない杜撰さで

ただただ早く、一刻も早くここから出て行くことだけを優先して部隊は逃げるように散っていった

 

 

半ば逃げ出すように、基地を飛び出し任地という名の死地に向かう

自分の階級が選抜兵だったためか、属州籍の軍団兵が数人ついてきた

人望があったわけではない、全員が全員誰につけばいいのか、誰に従えばいいのかわからないだけだ

だから見知った上司らしき人間にふらふらとついてきただけ……

ここに腐れ縁の友人がいてくれたことだけが唯一の救いだった

 

「こいつらもむごいもんだよ……俺たちも似たようなもんだがなぁ」

怯えと絶望を隠そうともせず、肩を落とし死人のようについてくる軍団兵

みな故郷を追われただ生きるためにここに来た者たち

それがここにきてもなお命を無駄に捨てろと言われるのだ、気を張れと言っても土台無理な話だろう

 

「俺達はほとほと運がないようだなぁ」

……いいや、これは運が回ってきたんだ

「何言ってんだ?俺達はついさっき死んで来いって命令されたんだぞ?」

 

皆が皆、死地に向かわされていると肩を落としている、だがそれはチャンスでもあるのだ

この作戦の結果は失敗に終わる、成功するはずがないと上層部に認識されている

 

失敗が前提の作戦で成功や戦果を収めればそれは掛け値なしで評価されるに違いない

ここで成果を上げれば出世できる、もう捨て駒にもされずに済む

 

「……ハハッ! よくぞまぁ前向きに考えられるなお前ぇ!ちょっと勇気出たわ!」

 

……それに、別に手ぶらで行かなきゃ行けないって命令でもなかったよな?

「そりゃ、ただ行け、今すぐ出てけってだけの命令だったと思うけど・・・」

 

目的地からルートを外し、行軍を進める

友人は何が目当てなのかしきりに訝しがったが、他の軍団兵はあきらめたように捨て鉢に歩き続ける

 

辿り着いた先は駐留基地から遠く外れたうっそうとした森林地帯

ぬかるむ足元を滑らないように進むと、その先には壮観な光景が広がっていた

 

インペリアル・コロッサス

魔導城プラエトリウム防衛の為に配備された無人型魔導アーマーコロッサス、そのバリエーション機体

無人で動くその異形は味方には頼もしく、敵におぞましく映る

軍団兵はおろか選抜兵程度ではとても管理下に置かれないほどの重要な巨大兵装が6機、そこに並んでいた

 

「おいおい……なんだこれ……なんでこんなもんがあるんだよ……!?」

 

先の大規模戦闘においてリットアティン戦死の報が来た際、援軍をいつでも送れるように兵装の確認と配備が急がれた

その過程でカストルム・オリエンス近くに大型兵装を駐機させ、援軍が送れるようになればバエサルの長城側から地上戦でも反抗作戦を行う計画が立てられていた

結果として援軍を送ることは敵わず、3国の進撃を警戒して大型兵装は駐留基地に集結させることとなったのだが……

「こいつらだけはチョロまかしてたってわけか!お前悪党だな!とっても好感が持てる悪党だ!」

コロッサスという遠巻きにしか見たことがない兵器を見て、少しだけ目が輝く属州の軍団兵

「お前!コロッサスだけじゃねぇんだな!なんだよこの装備!新式じゃねぇか!ガンハンマーにガンシールドまで……!」

コロッサスの傍らにあるコンテナには傷一つない新品の歩兵用兵装がギッチリと詰まっている、これもまた援軍のどさくさで隠しておいたものだ

 

騒ぐ友人の後ろで、少しだけ兵士の目が輝く

これだけの装備があれば、もしかしたら生き残れるかもしれない

作戦を成功させることができるかもしれない

故郷に帰れるかもしれない

 

少しだけ出てきた希望が生気を呼び戻す

……向いてるんだ

……運が向いてきているんだ!

 

「そうだ!俺達は今運が向いてきてるんだ!生きるぞ!勝つぞぉ!」

その声に続くものは彼らには居ない

けれど少しだけ生きる気力が湧いたのは、なんとなくだけどわかったんだ―――

 

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