とあるありふれた帝国兵の話

とあるありふれた帝国兵のお話 第3話 【属州上がりと血の味】

毎日口の中は血の味がした

 

思った通り軍属の大規模な増員が各地で始まった

その中でも訓練で合格すれば市民権を得ることができる正式な軍属になれるものを選択

町の人々は「リットアティンにでもなれるつもりか、身の程を知ればいい」と妬みと嫉みを隠しもせず投げかけた

「帰る場所などないぞ、この卑怯者の裏切り者め」と直接なじられもした

知ったことか、これが力だ、運だ

そんなやっかみは気にせず、むしろ心地よくすら感じた

 

 

軍についてからはもう別世界だ

軍属になるための、役立たずの一般人から役立たずの軍人になるための訓練が始まる

訓練といえば聞こえはいいが、拳と蹴りが言葉よりも飛びかう地獄のしごき

体力こそあれど要領が悪く、常に殴られる、蹴られる

属州上がりの正規軍人候補なんて人間としてまともにみてもらえない

 

けれどここには飯があり、寝床があり、安全がある

一日のしごきがおわり、誰にも見られぬように植木に血の混じった唾を吐く

殴られることにも慣れてきた、情けない声は出るし涙も出るけれど

急いで帰らないと更に罰を受ける、涙をこらえ立ち上がる

 

「お互い今日もボコボコだなぁおい」

 

立ったところで不意に話しかけられる、話しかけてきたそいつの顔もボロボロだ

そいつもまた同じ分隊で、これまた同じくらい出来が悪い

お互い要領が悪くてしょっちゅう殴られる、連帯で分隊が罰を受けるから仲間からも白い目で見られている同士だった

 

「全くよくもまぁあんなにいつもいつも殴れるもんだよな、拳の骨折れてたりしてな」

……殴るほうにも殴られる方にもコツがあるんだろうよ

「なるほどなぁ、お互い殴り殴られ慣れてるから大けがにならねぇってわけだ」

腫れあがった頬もお構いなしにカラカラと笑う、それにつられてつい一緒に笑う

お互いに肩を貸しあい、気持ち急ぎ隊舎に戻ろうとする

疲れ切って速度なんて出ないけど、不思議と悪い気はしない

 

運は味方に付いている

ここには飯があり、寝床があり、安全があり、そして……仲間があった―――

 

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